東京地方裁判所 昭和43年(借チ)2018号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔決定理由〕本件譲受予定者甲は、日本大学に在学中で、肩書地に居宅を所有しているものの、現在格別職業をもつていないが、その父乙は台北において観光ホテル等を経営する資産家で、現在日本に居住しており、かような関係から見ると本件譲渡によつて譲受人の資力の面から相手方に不利となるおそれはないものと認められ、また右譲受人の人的信用の面についても格別問題となるような点は認められない。
なお、本件では借地の一部に存する建物が譲渡される場合であるが、これに伴いその敷地部分の転貸をするのでなく、右部分につき賃借権を譲渡しようとするものである。そこで、賃貸人としては、借地が細分され、直接の契約の相手方がふえて借地人との交渉などの際の煩わしさが増すなどの不利益も生ずるので、この点も一考を要すると思われる。しかし、本件の土地の状況からすれば、前記二〇坪の部分が別個の借地関係となることにより、借地の価値を著しく損し相手方に不当に不利益を及ぼすとも思われないので、本件において転貸でなく賃借権の譲渡の方法によることを不当とし申立を排斥すべきものとは考えられない。
よつて本件申立はこれを認容すべきである。
三、次に附随の処分についてであるが、まず財産上の給付について検討する。
本件で調べた資料によると、次の事実が認められる。
本件賃貸借は、昭和四二年一〇月一一日東京高等裁判所で成立した訴訟上の和解によるものである。この訴訟は、相手方において本件土地を含む三筆の土地及びそれぞれの土地に存する建物を申立人から買受けたことを理由に右各建物について所有権移転登記及び明渡を求めた(土地については当時既に登記ずみ)ものであるが、右和解において、本件の土地及び地上建物については、相手方において、建物の所有権が申立人に属することを認めて、本件土地(これは申立人において相手方の所有に属するものと認めて)を建物所有の目的で申立人に賃貸することとし、その余の二筆の土地は地上建物を収去して東京都に売却し、その代金のうち二、〇〇〇万円を相手方が取得し、残りの代金及び東京都から支払われる補償金は申立人が取得することとした。なお、右の賃貸借において賃料は契約時から現在まで一カ月3.3平方米当り五〇円であり、権利金等の授受はない。
ところで、鑑定委員会の意見は、本件土地の更地価格を三五〇万円(坪当り一七万五八六八円)と評価し、一般に行なわれている慣行を酌み、その一割にあたる三五万円を財産上の給付として支払わせるのが相当であるとしている。
思うに、借地人が賃借権の設定を受ける際、いわゆる借地権価格に相応する権利金等の支払をせず、その後の地価の騰貴により、借地権価格が高額となり、その処分によつて価格の高騰による利得を現実に取得しうる場合には衡平の見地からその相当部分を賃貸人に支払わせるのが妥当と考えられ、かような場合は、右意見のような額も高きに過ぎるものとはいえない。しかし、本件においては事情は異り、賃貸借契約にあたり権利金の支払はなされていないけれども、それは前述の訴訟上の和解における互譲の結果によるものであり、訴訟の帰すうが相手方に有利なものであつたとしても(本件資料から窺われる右訴訟の経過からすると、必ずしも訴訟の帰すうについての判断は容易でないと思われ、これを的確に判定するには、前記訴訟におけると同様の事実調を要するであろう)、それを専ら思恵的なものと断じ、申立人が借地権を一般取引価額により処分することによつて、当事者間の衡平を失するに至る程の利得を得ることになると考えるのは相当でないと思われる。一方相手方は本件賃借権の譲渡によつて前述のように貸地の細分による不利益を受けることが考えられるが、それ以外には格別の不利益はない。
以上本件に顕われた事情によれば、これを財産上の給付額に的確に反映させる算定方式を見出すことは困難であるが、さりとて給付を要しないとするのも相当でない(前記鑑定委員会の意見は本件の特殊事情を考慮してないと思われるけれども、賃借権譲渡の場合においては、前述の慣行を酌んだ右の意見はなお合理性を欠くものとはいえず、許可の裁判にあたりこれを無視すべきではないと思われる)。そこで右委員会の意見をも参酌し、前示の事情に基づきこれを修正し金一五万円(前記更地価格の四%強、同委員会の示す借地権価格二四五万円の約六%)をもつて、申立人の支払うべき給付額と定める。
次に賃料については、前記和解における賃料決定の経緯に拘らず、この際適正な額まで増額するを相当と認め、鑑定委員会の意見に従い、賃借権譲渡の時から一カ月3.3平方米当り七八円に増額することとする。なお、期間の点は格別の変更を加える必要がないものと認める。(安岡満彦)
物件目録
(一) 土地
(1) 東京都世田谷区下馬町一丁目 宅地505.58平方米(152.94坪)
(2) 右土地のうち
西側66.11平方米(20坪)
(二) 右(2)の土地を目的とし、賃貸人を相手方、賃借人を申立人とする賃借権
ただし、普通建物所有を目的とし、期間は昭和四二年一〇月一一日から二〇年。